日本人が失くしつつあるもの

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日本人が失くしつつあるもの

今週号の日経ビジネスは、東電の特集記事でした。その中にあった「現場力の低下に歯止めかからず」という文字が、目にとまりました。そういえば、地震の前からそんなこと感じていたな、と。

ここ数年のことですが、交通機関等のインフラ部門で、初歩的なミスによる事故・トラブルが多くなったと感じてました。それも、普通に考えればありえないよ うな理由で。確か、「ネジの締め忘れ」だったり、「必要材料の数量確認ミス」といった類の、いわゆる初歩的なミスだったと思います。
徹底的な合理化や、高齢化による熟練職人の退職など、理由は多々あるでしょうが、世の風潮が変わってきたことも関係しているように思います。

昨今のIT化による効率化には、素晴らしいものがあり、私も多くの恩恵を受けています。それ自体は賞賛すべきで否定すべきことではありません。
その一方で、「効率的ではないけど、でも大切なもの」が軽んじられる傾向にないでしょうか。

例えば職人の世界。3年学んで初めて新人として相手にしてもらえ、10年経たないと一人前にはなれない、技術は全て目で盗む、そういった世界も確かにあります。
でも、効率化・スピード化がこれだけ進んでしまうと、すぐに成果のでない世界は敬遠されてしまうように思います。目で盗む・体で覚える、で技術を習得するよりも、ちょっとググッて結論だけパッと欲しい、そういうニーズが大半を占めてきているように思います。

また一方で、インフラ系の仕事は報われないことが多い上に、あまり華やかではないんですよね。
例えばシステム系。先日、みずほ銀行のシステムトラブルがありましたが、利用者にとってシステムは、「通常に動いて当たり前、動かないなんてありえない」という認識が強いと思います。だから、ひとたびトラブルで迷惑をかけると罵詈雑言の嵐。
同様のことは、鉄道でも言えるとでしょう。朝のラッシュ時間、電車が数分遅れようものなら、こころ穏やかでない通勤客は相当数いるはず。
やっぱり人間誰しも、仕事をする以上は人に感謝されたいもの。そんな様子を見ていれば、なりたい人も減ってくるってもんです。

今回の原発事故で、「Made in Japan」のブランド価値は大きく損なわれました。現在の中国のようにモノマネと言われ、安かろう・悪かろうと酷評された日本ブランド価値を大きく向上してこられた先人達の努力が水泡に帰してしまう危機的状況です。
日本ブランドを、もう信頼できるポジションに戻すためには、表だって賞賛されなくとも地道に努力を重ねる、そういったことができる人が沢山必要になると思います。
そのためにも、もう少しインフラを支えている方々に脚光を当てられたらいいな、と思いました。