「嫌消費」世代の研究 (松田久一著:東洋経済社)

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「嫌消費」世代の研究 (松田久一著:東洋経済社)

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数年前、入社してきた新人社員との会話。

私 「作業、連休前に終わって良かったね。これで連休フルに使えるね。どこか行くの?」

新人「いや別に。どこにも行きません」

私 「でも3日間もあるし。どっか遊びに行くとか、飲み行くとかしないの?」

新人「しないですね。家で適当に過ごします」

私 「あ、そう。じゃ来月の夏休みに海外旅行でも行くの?」

新人「いや。別に海外旅行行きたいと思わないし」

●旅行も行かない

●車も買わない

●外食もしない

そいうった傾向は、彼だけでなく、この世代共通のものみたいです。また、

●大画面テレビ

●車

●AV機器

こういった商品は、一昔であれば、お金の余裕が出れば買ったものですし、仮に余裕がなくともローンで買いたがる人が多かったと思います。しかし彼らはあまり買いたがらない。本の帯には、こんなことが書かれています「クルマ買うなんてバカじゃないの?」。

本書では、このような性向を持つ彼らを「嫌消費世代」と呼び、現在の消費低迷の一つの理由として位置づけています。嫌消費世代の考え方と動向を、他の世代との比較により分析していくのが本書の構成。単に事象の羅列やヒアリング結果だけでなく、きちんと統計分析した結果を用いているところは、信頼性があります。

分析にあたっては、日本人を7つの世代に分類しています。

終戦とバブル崩壊という二つの敗戦(バブル崩壊は経済的敗戦)が、日本人の価値観に大きな影響を与えたファクターであるとし、これらを何歳くらいに経験したかを軸としています。

①焼け跡世代 (終戦1~6才:1939~1945年生) 安心指向が強い、日本文化・歴史の維持に関心
②団塊世代  (終戦0才:1946~1950年生) 享楽志向が強い、自分らしさで行動したがる
③断層世代  (バブル崩壊30才以上:1951~1960年生) 旧世代と新生代が転換する節目
④新人類   (バブル崩壊21~30才:1961~1970年生) ナンバーワンよりオンリーワンに一番共感を感じる
⑤団塊ジュニア(バブル崩壊13~20才:1971~1978年生) 自由気まま、一寸先は闇が信条
⑥バブル後世代(バブル崩壊7~12才:1979~1983年生) 顕示指向強、ワンランク上、人間関係を広めたい
⑦少子化世代 (バブル崩壊1~6才:1984~1993年生) 誰かに評価してもらいたい、他人の目が気になる

冒頭の会話は、私が初めて職場で「これって世代の違いなの?」と思ったことなのですが、新人君は⑥のバブル後世代、私は⑤団塊Jrど真ん中。ある意味その感覚は当然だったのでしょう・・・。「嫌消費世代」とはバブル後世代とのこと。現在30歳前後、社会人として仕事もある程度落ち着き、収入もある程度増加し、個人消費の一翼を担っていくはずの年齢にさしかかっているのに「買わない」のはなぜか?

もちろん、よく言われる「非正規雇用者が多いため所得水準が相対的に低い」とか「将来に不安があるためムダな支出をしない」というのも理由の一つでしょう。しかし、よくよく見ていくと、それ以外のにも世代特有の理由もあるようです。

彼らの世代に キーワードとなるのは、「他人がどう思っているかが気になる」、「他人に羨ましがられたい」という欲求が、他の世代に比べて高いこと。他人の評価が気にな るから、サイトの口コミ欄を殊に気にして、オススメしているものしか買わない。つまり、他者からの「承認欲求」が強い世代ということのようです。

また、世代として興味のある分野は

●ファッション

●家具・インテリア

●食

ただし興味はあっても「他人に羨ましがられる」「他人が評価している」という後押しは必要なようです。逆に、クルマやテレビ・AV機器などは、持っていても他人に羨ましがられないことから、興味は非常に低いとのこと。分野別分析は、商品・サービスを39のカテゴリーに分けて行っているので、じっくり見ると面白い結果がありそうです。

もう一つのキーワードは、物価の推移。

ある程度個人として消費が出来る年齢を14才とし、それ以後の物価の変動を見ていくと、バブル後世代については、一貫してマイナス基調で推移してきたという特徴があります。それ以上の世代は、少しはインフレの世の中を経験しているのですが、彼らだけは経済も物価もマイナス基調しか経験していません。つまり、「待てば待つほど」、「我慢すれば我慢するほど」、欲しい物は安くなり、性能は向上する、という世の中でずっと過ごしてきたわけです。「興味があって欲しいんだけど、絶対今必要じゃないから、もう少し待とう」というマインドが大きいのでしょうね。

彼ら世代への対策として、いくつかアイディアが挙げられていましたが、そこは正直ピンとは来ませんでした。まあ、簡単に対処できるくらいであれば、どこかの企業がすでに対処しているでしょうしね。ただ、世の中の節目となる事件・事象を、どの年代で体験するかによって、確かに人生観は変わりますよね。その辺りは、面白かったです。

ちなみに、冒頭の新人君は、先輩諸氏の教育(?)により、今ではしっかり消費ができるようになりました・・・。

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